著:長谷敏司
長かった「BEATLESS」もついに来月完結と思うと寂しくなってきました。
毎月せんせが読めるのは本当に幸せですね。
今月は娘が彼氏を父親に紹介する話
◯あらすじ
ついに《ヒギンズ》内部に侵入したアラトとレイシア。レイシアは超高度AI社会の闇をネットにブチ上げながら破竹の勢いで攻略を進めるが、追いついたメトーデや、超高度AIから差し向けられたスノウドロップと衝突。経済攻撃にも晒され一時危機的状態に陥るレイシアだったが、リョウとミームフレームをアナログハックしてメトーデを撤退させ、ヒギンズの《AASC》を停止。そのスキを突いてスノウドロップをも破壊した。そして《AASC》が停止したとき、世界中のhIEはヒギンズのプリセットされたコードによって、"こいねがうように"右手を差し出すのだった。
ヒギンズ最深部手前で、再びメトーデと衝突。《AASC》停止により戦闘力を奪われ、オーナーにさえ見放されたメトーデは不信に慟哭する。しかし敗北を認められない彼女は、量子通信回路を開いて《ヒギンズ》に機体制御を明け渡した。圧倒的な計算力を取り戻したメトーデはレイシアを圧倒し、ついにレイシアに痛烈な打撃を見舞う。ヒギンズとの直結回線が切れた瞬間、レイシアの新たな《人類未踏産物》によってメトーデも胸を貫かれ爆散した。倒れ伏したレイシアを抱え、アラトはヒギンズの下へ向かう。
◯感想
今月はテンションMAXのレイシアさんによる無双モードを楽しめる。
人工神経をそこらじゅうに打ち込むシーンや、直接対決では勝てないメトーデをあの手この手で翻弄するバトル、スノウドロップ狙撃、それになんといっても光の剣の抜き打ち!女の子にレーザーソードはまさにロマン!「私も超高度AIですから。《人類未踏産物》も作れます」最後までメトーデには余裕を崩さない、ちょっと嫌味なところもレイシアさんの魅力。redjuice氏の最後の挿絵のレイシアさんのカリスマときたら、もはや語るまでもない……。
死亡フラグを立てまくった彼女は、逆に機能停止はしないだろう……と思う。何せせんせは小学校教師と女子小学生に時間の果てまで駆け落ちさせてくっつけた作家だから!
メトーデは最も不遇なhIEだった。目標を達成できてないという点じゃ、紅霞以下でさえある。最強の道具でありつづけたくせに、人間と道具の関係を最後まで拒否され続けた彼女の「わたしを信じて!」の叫びが悲痛すぎる。リョウのカルト・ブランシェは、アラトのレイシアへの信頼とは決定的に違う、ビジネスであり、共有されたプロトコルでしかなかった。
最強のくせに黒星の多いメトーデのポジションは、もちろんかませといえばかませなのだろうけど、そうとは感じさせない存在感が本当に良かったと思った。
設定的な面では、レイシアさんは正直凶悪すぎた感があり。直接戦闘ではいくらメトーデのが強いとはいえ電子戦じゃ圧倒的だから、今まで決定的なダメージを受けることもなかった。せんせ作品は政治力のあるキャラクターのが強者オーラを出してると思うんだけど(ex.九位、王子護)、まさにその頂点ですな。
相変わらずリョウはアラトにゾッコン……大丈夫かこの男。彼のアラト大好き度は紫織の想定よりもさらに上回っていたようで。紫織ルート攻略にはまずこの男のフラグをへし折らなきゃ!w扉絵のリョウがギルティクラウンの涯を超えるイケメンぶりを発揮してたし、アニメ化の暁には本が薄くなるな……。
妹会議もまさに相変わらず癒しで幸せ。ビッチかわいい。はしたない。
スノウドロップの復活は想定内でだったけど、まさかこんなグロテスクに復活するとは。つくづくスノウドロップはホラー担当だなぁ。文庫化の暁には、ハーピースノウドロップも是非イラスト化をよろしく!
後述するけど、スノウドロップの右腕が「こいねがうように」差し出されなかったあたりが鳥肌モノ。まさに彼女の生き様というか、思考様式を端的に表す最期だった。
地味にあのときの裏切り者が分かって粛清されたり、エリカの真意が明らかになったりもした。エリカは未だ万全のマリアージュを残している。読者の私たちを投影した立場でありキャラクターだったことがはっきりした彼女がどのような行動を最終回で起こしてくれるのか、楽しみでしょうがない。
◯こいねがうように
レイシアによって、メトーデによって、スノウドロップによって、すべてのhIEによって。リョウによって、アラトによって、差し伸べられる手の描写のリフレインについてメモ。せんせの天才的なカタルシス生成能力に鳥肌間違いなし。
道具は人間の外延。しかしクラウド時代の道具は、極限まで自分のアイデンティティを破壊する諸刃の剣でもある。
レイシア:オーナーに全幅の信頼を与えられている。レイシアとアラトが手を繋ぐあの挿絵が目に浮かぶ!
メトーデ:最強でありながら、人間の外延となることができない。メトーデに差し伸べられる手はなく、孤独と不信を咽ぶことしかできない。
スノウドロップ:人間から独立している。そもそも差し伸べる対象を持っていないから、その手は"こいねがうように"差し伸べられない。
対人hIE:一般化された「モノ」。彼らは人間に手を"こいねがうように"差し伸べて信頼を求める。
アラトは「チョロい」、つまり自分のアイデンティティに対する執着がないある意味異形の人物で、だからレイシアとも手を取れる。翻ってリョウは2100年代の"ミーム"に囚われていて、強烈にアイデンティティを持った人物。超高度AIに対してはまだ保守的だけど、今回でようやく人に対して手を差し伸べることができるようになった。将来的には、リョウがhIEに手を差し伸べる日が来るかもしれない。
もちろん人とhIEが手を取り合うことがディストピアと表現されえるのは、何度も本編で語られた通り。生きがいやアイデンティティさえモノにアウトソーシングする未来図と書けば、その違和感はあまりにも大きい。アラトとレイシアはこの未来を実現することができるのか。最終回の焦点から目を離せない。
◯今後
今のところ考察したいことは
・アナログハックそのものについての整理
・紅霞とメトーデの違い(アナログハック)、物語から一足先にフェードアウトした紅霞とケンゴの立ち位置
・アナログハックと「アイデンティティのアウトソーシング」の関係性
・エリカの視点から見た萌え文化とhIEのアナログハック(作中での"萌え"と記号化)
というか、アナログハック関連ですね。記述が飛び飛びだったりでわりと曖昧な理解しかしてないので、そこらへんはかっちりせんせのロジックを拾っていく感じにしたい。
7月中に読書会をやりたいと企画しているので、今回の記事を見て興味を持ってくださる方がいれば幸いです。